
賢者たらん会
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道路工事、トラック、調理師、港湾労働など一通りのブルー職種を渡り歩く。その理由はバンドマンであったが故である。ドラマーとしてのスタイルはパワーヒッターであり、アンサンブルぶち壊し寸前の音量とタイミングを旨とする。武器であるスティックは経費で落とせるためにこのHNとなる。
運命的な出会いの果てに音楽講師を務めつつ現在webプロデュースや執筆などにおいて自己実現を図る。現在東京に本社を置く広告代理店の札幌営業所室長を務める。賢者たらん!のクリエイト部門責任者。
東京ですよ。駅で言えば東急大井町線の等々力です。駅からは5分程度でした。近いんですよ。等々力から2駅で自由が丘。そこから東横線に乗り換えて10分で渋谷ですから、こりゃもう一等地。場所だけは。
アパートと言うか、昔で言うところの下宿でしょうね。建ってから40数年でした。共同玄関で共同ぼっとんトイレ、共同の流しがありましたよ。水道の蛇口が3本、石の流し台についてました。骨董品屋さんに売れるかも。
2階でした。3つの部屋が並んでいるんです。私の部屋は階段上がって左側、端っこでした。4畳半一間です。戸は引き戸で。カギがかからないんですよね。かけてなかったし。実際。隣もその隣も4畳半一間。二人とも怪しい住人でしたね。あれ、良くない薬とかやってたのかな?ある日、隣のドアが薄く開いてたので何の気もナシに覗きますとね、なんだろ、フィギュアというんですか?女の子の人形。あれが見たところ何百体と並べてあったんですね。不気味ですね、恐いですね。そいつが隣。もう一人は50歳は超えてたでしょう。常時酔ってたみたいです。よく大声で「死んでやる」とか叫んでましたよ。
一階は3部屋一世帯の住居でしたけど元々住んでいた住人がおかしくなっちゃったみたいで、何トンものゴミを残して蒸発しちゃったようでして。そのまま残っていましたよ。ベニヤでふさがってました。
ゴキブリがすごかったですね。帰ってきて灯りをつけると、ゴミ箱からいっせいに10匹程度が逃げていくんです。部屋の中のどこかに。絶対にどこかにいるんです。ああ、その気持ち。全然安心できませんよね。もうひとつ、ヤモリ。雨の日なんて窓ガラスに3匹くらいへばりついてるんですよ。名前までつけたりして。あと、クモ。部屋にいると突然頭上からツーッと降りてくるんです。何匹も。ライターでやっつけてましたけど。トイレにはムカデが常駐していました。見ないように用を足すのが難しかったですね。
40からそこで暮らしていました。はい、ついこの前までの話です。その前ですか?札幌です。家内と息子、3人で暮らしてました。ごく普通に。ええ、高級ではありませんけれども持ち家です。私にしては思い切った買い物でした。3LDKですね。よくあるタイプの。前職時代、幸せに暮らしましたよ。お金持ちじゃないけど家族と一緒に、平凡で本当に波風が立たない、平和で幸せな日常でしたね。いえいえ、離婚とかじゃありません。うちは本当に仲が良くて、家族の問題なんて全然ありません。・・・はい、一人で上京しました。単純に仕事を探すためです。
前職はメーカーでした。東京本社でね、札幌営業所に17年勤めました。楽器の分野でしたよ。不況になってなかなか業績がね。年々ジリ貧。早い話が、上司に転職を勧められたんですよ。ギリギリ可能性があるんだから道を変えてみろと。今のままじゃまずいぞって。
でも私、高卒で40です。なーんも資格はない。普通免許だけ。強いて言えばドラムの演奏は自信がありました。というかプロでしたから。そう、なのでその一点にかけてみたんですよ。
だってその部屋が見つかる前の一ヶ月、私は住む家がなかったんですから。世話になってた音楽事務所のレコーディングスタジオにベッドマット運びましてその上が私の場所だったんです。立って半畳寝て一畳なんて言いますが、もうそのままで。わかりますか?本気で幸せを感じていたんです。その築40年のボロ下宿に。
さぁそこから始まるのがバンドマンとしての・・・